高齢化社会を支えるDXの推進
DX推進
現在日本は急速に高齢化が進んでいる状況です。日本の高齢化は世界的に見ても速いペースで進行しており、内閣府が2022年に発表した統計からも、他国と比較してその速さが読みとれます。
内閣府令和4年版高齢社会白書「2高齢化の国際的動向」より引用
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2022/html/zenbun/s1_1_2.html
この高齢化社会が抱える様々な課題に対してDXによる解決策が模索されています。今回の記事ではDXが必要な理由や具体的なDXに関わる技術や事例を主にご紹介します。社会課題の解決という側面はもちろん、新たなビジネスの市場としても注目です。
鈴木脩一
研究員/広報
- 調査概要
高齢化社会でDXが必要な理由
高齢者のコミュニケーション促進
高齢化社会において、高齢者のコミュニケーション促進は重要な課題です。
65歳以上の単身者の割合が年々増加しており、内閣府の統計でも令和2年の時点で男性では15%女性では22%の方が一人暮らしという結果が出ています。一人暮らしの場合には、体調不良や不慮の事故が起きた場合にその異変に誰にも気が付かず事態が悪化するリスクが高まります。また、自然災害や詐欺などの予期せぬトラブルに対しても相談できる人が周りにいない状況に陥ります。こういった事態を避けるため、離れた家族や地域住民、同じ高齢者同士で常に近況を把握できるようにコミュニケーションを日頃から促すことが必要です。DXはこの課題を解決するための有力な手段となります。例えば、インターネットやスマートフォンの普及により、高齢者同士や家族とのコミュニケーションが様々な形で可能です。ビデオ通話等を活用することで、遠く離れた家族や友人と顔を見ながらリアルタイムにつながることができます。さらに、オンラインコミュニティや専用アプリを利用することで、同じ趣味や興味を持つ高齢者同士が交流し、孤立感の軽減につながることが期待できます。
高齢者の医療・健康管理の向上
高齢化社会では、高齢者に対する医療や健康管理に関して多くのサポートが必要です。
サポートが必要な状況ではある一方、少子化による働き手の減少なども影響し主に地方では医療機関の減少問題などが起きています。近所に病院が無い場合には、遠く離れた医療機関へ通わなければならず、高齢者の経済的・身体的な負担も増えているのが現状です。
DXを進めることで、高齢者の医療・健康管理の向上に貢献することができます。例えば、ビデオ通話等を活用したテレヘルス(遠隔治療)やヘルスケアアプリを利用することで、高齢者は自宅で簡単に健康状態をモニタリングすることができます。また、医療機関とのオンライン診療や遠隔監視により、遠隔地に住む高齢者でも適切な医療サービスを受けることが可能です。これにより、高齢者の生活の質が向上し、健康な暮らしを送ることができるでしょう。
高齢者の生活支援の充実
高齢者にとっては日々の買い物や食事といった生活面での負担が増えることも課題の一つです。この高齢者の生活支援は、DXを活用することでさらに改善できます。例えば、高齢者向けのシニア専用アプリやウェブサイトを提供することで、高齢者が生活に必要な情報を簡単に入手することが可能です。また、食事の配膳ロボットや家族が遠隔から状況を把握できる「見守りシステム」などの高齢者向けの技術も普及しており、生活の安全性や便利さが向上します。
高齢者向けのDXを進めるために必要な施策
DXの推進にはサービスやソフトの開発はもちろんですが、高齢者自身がスムーズにシステムを利用できるようにサポートを行うことが重要です。デジタル機器を持たない世帯への機材の支給や、操作方法などをレクチャーすることでハード面とソフト面双方を検討する必要があります。
高齢化社会を支えるDX事例
長野県伊那市ではオンライン診療可能な車両が高齢者の自宅へ訪問する「モバイルクリニック事業」を展開しています。
この車両にはビデオ通話で医師と会話できる設備と血圧計等の検査機器が搭載されています。看護師も同乗しており、対面での診察と変わらないサービスを受けることが可能です。
患者側にとっては、自宅に居ながら受診ができる点に加えて遠隔医療で必要となるパソコンやタブレットといった機器を用意したり操作したり手間が省けるというメリットが生まれています。医療提供側にとっても、病院にいながら効率的に患者の対応が可能になることで双方にメリットのある施策です。
介護DX:AIによる認証を活用して離設・事故の防止
介護施設や医療機関においても利用者や従事する方を支える為のDXが進んでいます。
現在、介護施設等では、転倒事故や認知症の症状に伴い施設から行方不明になってしまう事故が問題となっています。ただし、事故の防止や発生後の対応の為に見守る職員の数も決して十分とは言えない状況です。
防犯カメラなどを取り扱う株式会社トリニティーはこの問題をAIによってサポートする映像認識システム*1を開発しました。このシステムでは設置された防犯カメラから外出する人の顔を自動で検知して、施設職員のLINEグループに画像と共に通知します。さらに、転倒する際の頭や腕の動きを予め学習したAIによって高齢者の転倒を探知してアラートを出すことも実現しています。
*1 https://www.trinity4e.com/ai/ai-case-05.html
「ポケモンGO」によるコミュニケーション促進と健康増進
高齢者のコミュニケーションの促進と健康増進に向けたコンテンツとして『ポケモンGO』が注目されています。『ポケモンGO』とは世界的人気ゲーム「ポケットモンスター」のキャラクターを捕まえて遊ぶゲームです。スマホの中の地図と現実の町並みが連動しており、特定のポイントでスマホをかざすとポケモンが現れて手に入れることができます。
2016年に配信されたポケモンGOは若者を中心に全世界で大ヒットしました。しかし、現在では若者だけでなく高齢者を中心にプレイヤーが広がっています。
シンプルで分かりやすいというゲーム性はもちろんですが、実際に外出して歩いてプレイすることから健康増進のためのウォーキングも兼ねてプレイしている方が多いのも特徴です。また、自宅の近隣をあることで同世代のシニア層ともポケモンGOがきっかけにしたコミュニケーションが生まれています。
さらに、ポケモンというコンテンツを通じて子供や孫だけでなく、世代を超えて交流が生まれていることも注目されています。
まとめ
今回は、高齢化社会に向けたDXの取り組みを紹介しました。
この社会課題の解決には行政だけではなく、民間の企業を含めた取り組みが重要だと言えます。同時に大きな需要を抱えた新たな市場、新しいビジネスチャンスとして今後も注目されます。